
「では、契約金として100万円をお願いします」——ハウスメーカーとの話がまとまると、こう言われる場面がやってきます。
金額を聞いて、少し身構えたのではないでしょうか。土地の最終確認も、住宅ローンの本審査も、まだ残っている段階です。
とはいえ、担当者との関係は良好で、断る理由もありません。「もし進められなくなったら、このお金はどうなるのだろう」と思いながら、聞きそびれてしまう。よくあることです。
聞きにくいのは当然だと思います。相手を疑っているように受け取られたくないからです。
そこでこの記事では、宅建士の立場から、そのお金の性質を条文にもとづいて整理しました。知っておくことは、相手を疑うことではありません。納得して契約するための準備です。

このお金は、会社によって呼び方が違います。「手付金」「契約金」「着手金」「申込金」など、さまざまです。
呼び方が違うと性質も違うのか、と気になるところですが、大事なのは名前ではありません。その契約書のどの条項に紐づくお金なのかを見ることです。
たとえば同じ「契約金」でも、最終的な代金に充当されるものもあれば、別の扱いになるものもあります。契約書を読まないと分かりません。
そしてもうひとつ。土地を買う場合は、土地の手付金が別にあります。こちらは建物とは性質が違うものです。次の章で見ていきましょう。

まず、土地や建売住宅を「買う」場合の話です。
ここには、買主を守る仕組みが2つあります。どちらも宅地建物取引業法が定めているものです。
ひとつ目は、手付の額の上限です。
宅建業法39条は、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約において、代金の額の10分の2を超える額の手付を受領できないと定めています。つまり2割が上限です。
ふたつ目は、手付金等の保全措置です。
宅建業法41条は、工事完了前の物件について売買で自ら売主となる場合、保全措置を講じた後でなければ手付金等を受領できないと定めています。預かったお金に保証を付けなさい、ということです(所有権移転登記が済んでいる場合や、代金の5%以下かつ政令で定める額以下の場合などの例外があります)。
「取りすぎない」と「預かったお金を守る」。売買には、この2つの仕組みが用意されています。

ここからが本題です。
先ほどの2つの条文を、もう一度よく見てください。どちらも「宅地建物取引業者が自ら売主となる売買」が要件になっています。
一方、注文住宅の建物は請負契約です。完成した物を買うのではなく、工事を発注する契約です。売買ではありません。
したがって、手付の上限規制も、手付金等の保全措置も、注文住宅の建物には適用されません。
プロの視点
これは住宅会社が不誠実だという話ではありません。法律の枠組みが最初から別だ、という構造の話にすぎません。売買を想定してつくられた規定なので、請負には届いていないだけなのです。だからこそ、請負では契約書の解約条項が重みを持ってきます。契約書が守ってくれる範囲は、自分で確かめておきましょう。
この「売買と請負で法律が変わる」という構造は、重要事項説明でも同じです。詳しくは注文住宅の重要事項説明で解説しています。

では、請負契約では発注した側が何も守られていないのでしょうか。そうではありません。
民法641条に、こう書かれています。
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる
請負契約は、注文した側の事情で進められなくなることを、はじめから織り込んだ作りです。転勤、収入の変化、家族の状況。工事が完成する前であれば、注文者の側から解除する道が残されています。
ここで大切なのは、「いつでも」と「損害を賠償して」がセットだという点です。
無条件でやめられる、という意味ではありません。解除はできる。ただし精算が発生する。この2つを分けて理解しておくと、契約書の読み方が変わります。

では、その精算はどう考えるのでしょうか。手がかりが民法634条にあります。
請負人が既にした仕事のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できる、という規定です。
かみ砕くと、こうなります。進んだ分は払う。
だから、契約した直後で設計にも入っていない段階と、着工して基礎ができている段階では、当然に結果が変わります。
つまり「戻るか、戻らないか」の二択ではありません。どこまで進んだかに応じた精算、という理解が正確です。
具体的な金額や割合は、契約書の定めと工事の進み具合で決まります。相場を調べるより、自分の契約書に何が書かれているかを確認するほうが確実です。

ここまでを、契約前にできる行動に落とします。見るのは次の3か所です。
1. 解約・解除に関する条項
どういう場合に解除できるのか。そのとき何が発生するのか。違約金の定めがあるのか。ここが本体です。
2. そのお金の性質
払う契約金が、最終的な代金に充当されるのか。別の扱いなのか。契約書のどの言葉で書かれているかを見てください。
3. 支払いスケジュール
契約時・着工時・上棟時・完成時に、それぞれいくら払うのか。全体の流れが分かると、いま払う額の位置づけが見えます。
3つとも、契約前に聞いていいことです。切り出しにくければ、こう言えば足ります。
「解約の取り決めは、契約書のどこに書かれていますか」
疑っているのではなく、書面を確認したいだけだと伝わる聞き方です。まともな担当者なら、むしろ丁寧に説明してくれます。
ここまで見てきたとおり、請負契約では契約書の書き方によって結果が変わります。
法律が一律に守ってくれる部分が限られているぶん、契約書の条件そのものが重要になるわけです。
そして、その条件は会社ごとに違います。
ここで問題になるのが、1社しか見ていないと、その条件が一般的なのか厳しいのかが分からないということです。比べる相手がいなければ、判断のしようがありません。
複数社から提案を取り寄せておくと、金額だけでなく、進め方や条件の違いも見えてきます。契約書の条件も、会社を選ぶ材料のひとつです。
契約後の変更については注文住宅は契約後どこまで変更できるでも解説しています。
とはいえ、1社ずつ問い合わせて回るのは手間でしょう。タウンライフ家づくりなら、同じ要望で複数社の間取りプランと資金計画を無料で取り寄せられます。比べる相手をつくる方法のひとつです。
Q. 契約金の相場はどのくらいですか。
会社や契約の形によって幅があり、一律の基準はありません。金額の大小より、そのお金が代金に充当されるのか、解約時にどう扱われるのかを契約書で確認するほうが実質的です。なお、宅建業法の2割上限は売買が対象で、請負契約には適用されません。
Q. 契約前に「解約したらどうなるか」と聞くのは失礼にあたりませんか。
あたりません。契約書に書かれている内容を確認する行為だからです。「疑っている」ではなく「書面を確認したい」という聞き方をすれば、伝わり方も変わります。むしろ、そこを丁寧に説明できる会社かどうかが分かる場面でもあります。
Q. 住宅ローンの本審査に通らなかった場合はどうなりますか。
これは契約書にローン特約(融資が承認されなかった場合の取り決め)があるかどうかで変わってきます。特約の有無、対象となる金融機関、期限の定めは、契約前に必ず確認しておきましょう。ここは契約金の扱いに直結する部分です。
Q. 土地の手付金と建物の契約金は、別に必要ですか。
土地から購入する場合は、土地の売買契約と建物の請負契約が別にあります。したがって、それぞれのタイミングで支払いが発生するのが一般的です。適用される法律も別なので、分けて考えてください。
Q. 契約金は、最終的な支払総額に含まれますか。
代金に充当される扱いであれば、総額の一部を先に払う形になります。ただし契約書の定め方によります。「この契約金は代金に充当されますか」と、その場で聞いて確認しておきましょう。
契約金を払うということは、家づくりが前に進むということでもあります。その一歩を、内容を分かったうえで踏み出せるように。この記事がその準備になれば幸いです。
※本記事は2026年8月3日時点の法令にもとづく一般的な解説です。個別の契約内容や解除に伴う精算については、契約書の記載と担当者へのご確認をお願いします。